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【story4】4人の子どもと手仕事と


ハンドメイド雑貨店 フロート 赤根いずみさん 40歳

千住暮らし【ストーリー1】写真1


千住暮らし【ストーリー1】写真2


手仕事が毎日の元気のもと



北千住駅から徒歩15分、かつて職人が住んでいたという千住寿町の路地に2020年2月にオープンした古民家シェアスペース「せんつく」。昭和の民家ならではの懐かしい雰囲気が広がる木造建築だが、2階の1室に足を踏み入れると、がらりと印象が変わって色鮮やかなスペースが広がる。赤根いずみさんが営む「ハンドメイド雑貨店 フロート」だ。




千住暮らし【ストーリー1】写真6


「古民家が好きだし、明るくてポップなカラーやモダンな雰囲気も好きなんです。初めての体験だったけれど、ビスの穴をパテでなくして、壁も天井も自分で塗ってと、自分好みに店を作っていくのは面白かったですよ! 家具も自分でリメイクしたんです」。

入居時のことを尋ねると、赤根さんはこう笑顔で答えてくれた。





店内で販売されているマスコットやイラスト、マスクや帽子などのハンドメイド雑貨はすべて赤根さんが作ったものだ。


「もともとは広告などを作るデザイナーだったんです。でも、上の女の子が生まれて園グッズを作ったら、ハンドメイドが楽しくなってきて、すっかりはまってしまいました」





実は赤根さんには4人のお子さんがいる。育児や家事の傍ら、店も開いているのだ。

「マスコットは子どもが喜ぶから作るようになりました。子どもがいると、つい作るものにも帽子やマスクなど、子ども用のグッズが増えますね」。


毎日大変じゃないですか、と尋ねると、

「子育てだけしてると息が詰まることがあるじゃないですか。私にとって、物を作ることがストレス発散になっているんです」。


だからこそ子どもとの生活とともにたくさんのグッズが生まれ、「千住てのモノ市」など千住内外のアートイベントにも参加するようになり、店舗を構えるまでに活動が広がっていったのだ。





「最初の子どもが女の子だったのも、色んなグッズを作るきっかけになったかもしれません。男の子用のグッズよりも女の子用の方が派手な色合いにしたり、リボン、フリルをつけることもできるし、上の子はかわいいマスコットも喜んでくれたので」。子どもが喜ぶともっと作りたくなりますよね、と赤根さんは笑顔で答える。


こうして子ども用品から始まったハンドメイドは、今ではマスコットやアクセサリー、バッグ、大人用の帽子など多岐に渡るようになった。





赤根さんのお子さんの中でも一番下の伊織くんは4歳。今年の春に園に入るまでは赤根さんとともに店に足を運び、店が終わるまで一緒に過ごす毎日だった。


「『古いおうち行くよー』って言うと、いつも嬉しそうについてきてくれました。この建物が好きなのかも。お店の中ではひとり遊びしているけれど、私の作業の合間に一緒に遊んだり、帰りに公園に寄ったりしてますね」。



千住暮らし【ストーリー1】写真12


フロートでは雑貨の販売以外にも、参加者自身がオリジナルグッズを作れるワークショップを不定期に行っている。お子さんの写真も入った手形・足形のメモリーボックスや、招き猫の絵付け体験、マスコット作りなど、その内容はさまざまだ。4月からは伊織くんの幼稚園生活が始まったため、今後はこのワークショップも増やす予定だという。


「お店の人が、店内でつけるオリジナルデザインのマスクやTシャツを作りに来てくれることもあるんです」。





自分で作れば、世界に1つしかないアイテムのできあがり。何を作って行けばいいか迷っても、赤根さんがヒントを出してくれたり完成品を見せながらアイデアづくりの手助けをしてくれる。


「参加者の皆さんからは『絵は苦手だけれどやってみたら楽しかった』『家じゃなくてお店だから無心になって作れた』『かわいく作れて大満足』などの声をいただいています」。


千住には飲食店や古着店など個人経営の店舗が多く、店内で身に着けるオリジナルグッズのニーズも高い。ワークショップにはハンドメイドになじみがなくても参加できるので、一般の人から店のグッズを作りたい人まで、オリジナリティを求める人から好評だ。


また、幼稚園や保育園の入園準備で忙しいママたちに代わって、オリジナルの布団カバーや布かばんを手作りするサービス(有料)も行なっており、千住で子育て中のママたちを影でそっと支えている。






休日は、外遊びの時間!





お店がお休みの週末には、赤根さんは子どもたちと外遊びに出かける。

千住は知る人ぞ知る、公園が多い土地だ。川沿い、線路沿い、住宅街の中などに大小いくつもの公園があり、地元の子どもたちは好きな遊具を使えたり、やりたい遊びができたり、友だちと集まりやすい場所を選んで遊んでいる。


「うちでよく行くのは、タコすべり台のあるタコ公園ですね」。

千住には、足立区名物のタコすべり台のある通称・タコ公園が複数ある。中でも赤根さんのお気に入りなのは千住東町公園だ。





「タコ公園(千住東町公園)は横を電車が通っていますよね。だから電車好きの伊織が喜ぶんです」。



3番目のお子さん・穣二くんもつき合ってくれるので、今ではここが定番の遊び場になったのだそう。墨田川沿いの土手がそのまま公園になった千住大川端公園を散歩するのも赤根さんのお気に入りだ。ときどき足を伸ばして隅田川を渡り、汐入公園にも行く。川辺は広々と心地よくて好き、と赤根さんは言う。



「結婚して夫が生まれ育った千住に住むようになったけれど、今では古民家と新しい建物が入り混じっていて、近くに隅田川と荒川が流れるこの町が気に入っています」。





この日赤根さんと一緒に公園遊びにやってきたのは、下の2人、伊織くんと穣二くんだ。

別行動となった上のお子さんたちは高校1年生と中学3年生。「上の子たちは大きくなってからは自分たちででかけていくので、公園遊びは2人が多いんです。でも4人とも仲良しですよ」と赤根さん。


タコすべり台に、シーソーやブランコ、走り回れる広場など、ここには子どもたちの好きな遊びが広がっている。赤根さんもブランコに乗る子どもたちの背中を押したりシーソーを揺らすのを手伝ったりと、元気に動き回っている。






手づくりが生きる日々の生活



外遊びの時も、子どもたちが身に着けているものには赤根さんの手作りが少なくない。

たとえば帽子とマスク。





伊織くんが身に着けているポンポンつきの帽子は、赤根さんが作って穣二くんが使っていたもののお下がり。ポップで大人が身に着けていたら目立ちそうだけれど、小さな子どもならすんなり着こなせてしまう。


「マスクは肌触りのいい布の中から、子どもの好みの柄を選んで作ってます」。

と赤根さんが言う通り、乗り物好きの伊織くんのマスクはクルマ柄、小学生の穣二くんはちょっとお兄さんらしい無地、赤根さんはおしゃれなフラワーレース付きだ。





こんなふうに何気ない日用品を手作りするようになったのは、実家の影響もあると思う、と赤根さんは言う。



「実家はケーキ屋兼パン屋だったんです」。

毎朝、赤根さんは父親の焼いたパンを食べて妹たちとともに育ってきた。



だからこそ、独立した家庭を持った今でも、普段の生活で自分たちで作ったものを使うのが当たり前になったのだ。

毎日の食事でも、家族それぞれが絵付けした砥部焼の小皿が活躍しているという。





「自分が絵付けした小皿は自分専用になってます」。

まだ絵が描けない年頃でも、手形をつけたり点や線を描くことはできる。1人1人がオリジナルのお皿で、日々の食事をしているのだ。




たいへんな家事も楽しみをまじえて



オリジナルと言えば、今流行のデコ飯は作りますか? と尋ねると、

「デコることはないですね。毎日のおかずは大皿料理です! クッキーやケーキを作ることもあるけれど、すぐになくなっちゃって……」と赤根さんはため息。

お子さんが4人いて、しかもそのうち2人が中高生の家庭では、毎日たくさんの食べ物が必要なのだ。





そのため、フロート帰りにはほぼ毎日、「おっ母さん」などのスーパーに寄り、週末には平日忙しいパパにクルマを出してもらって「ライフ」などの大型スーパーで買い出しをする。


「買い出しは大変だけど気分転換にもなります。下の穣二と伊織も連れていきます」。

一般人でも卸売市場・足立市場で買い物ができるイベント「あだち市場の日」に行ったこともある。「穣二がわりと魚好きなんです。マグロの解体ショーも見ましたよ!」


ただし、おいしいパンで育っただけに、朝食用のパンだけは食パン専門店や町のパン屋で買うことも多い。千住のまちでは、小さなお店の店内で丁寧にパンを焼くパン屋さんがよく見られる。


「『俺のBakery』の食パン、食べてみました? おいしいですよ! あと、フロートの近くにあるミサキベーカリーや北千住駅の近くにあるふらんすやにもよく買いに行きます」





製作時間を作り出すためには、料理だけでなく家事の工夫も欠かせない。

「家族6人だと、洗濯にも干すのにも時間がかかります。思いきって大型洗濯機を買って、ようやく1日1回で全員分洗えるようになりました」。


その他にも掃除にはスティック掃除機を小まめにかけたり、子どもたちにおふろ掃除や洗濯物を畳んでもらったりと、工夫しながら切り盛りしているのだそう。






生活と物づくりの両立はたいへんだけれど、生活に物づくりを生かし、物づくりを生活に生かすことはできる。子どもの成長とともに作るものは増え、活動が広がっていく。

毎日の生活と物づくりは、2つの車輪のように赤根さんの日々を回している。





取材:2021年3月12日、4月12日

写真:伊澤直久

文 :大崎典子


 

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